
職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、働く人の心身に悪影響を及ぼし、職場全体の雰囲気や生産性にも大きな影響を与える深刻な問題です。2022年4月からは中小企業にも防止措置が義務化され、企業は本格的な対応を求められています。
しかし、「何がパワハラにあたるのか分かりにくい」といった声も多く、誤解やトラブルが後を絶ちません。そこで本記事では、厚生労働省が定めるパワハラの6つの類型をわかりやすく解説します。
パワーハラスメント(パワハラ)とは
パワーハラスメントとは、職場において優越的な立場にある者が、業務の適正な範囲を超えて、身体的・精神的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為を指します。
例えば、部下に対して暴力をふるうといった身体的な攻撃は、誰の目にも明らかなパワハラとして理解されやすいですが、それ以外の行為については一見すると「業務の指導」や「上司の裁量」の範囲に見えることもあり、本人の受け取り方や状況次第でパワハラに該当するかどうかが分かれます。
しかし、そうした行為も内容や継続性、職場での立場などを踏まえて判断され、パワハラと認定されるケースがあるため、注意が必要です。
パワハラの6つの分類
厚生労働省では、パワハラに該当する行為を以下の6つの類型に分類しています。
自分には関係ないと思っていても、知らず知らずのうちに相手に精神的な負担をかけていることもあります。自分の言動が無意識のうちに相手に負担をかけていないか、今一度見直してみることが大切です。
- 1.身体的な攻撃
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殴る、蹴る、物を投げつけるなど、身体に危害を加える行為が該当します。実際に傷害を負わせるケースはもちろん、接触がなくても威嚇的に机を叩く、近距離で怒鳴るといった行動も含まれる場合があります。
例:・上司が部下に対して怒って机を蹴る。
・業務の失敗に対し、頭を叩くなどの身体的接触をする。 - 2.精神的な攻撃
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繰り返し人格を否定するような発言や、大勢の前で必要以上に叱責するなど、精神的に追い詰める行為が該当します。厳しい指導とパワハラの線引きが難しいため、発言の内容・頻度・状況が判断基準となります。
例:・「お前は使えない」「辞めたほうが会社のためだ」といった暴言。
・他の社員が見ている前で繰り返し叱責。 - 3.人間関係からの切り離し
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業務上必要なコミュニケーションを取らない、物理的に隔離するなど、孤立させる行為です。組織内の情報共有やチームでの協力が前提となる職場では、これが重大な不利益となり得ます。
例:・意図的に会議に呼ばない。
・デスクを離れた場所に移し、業務から外す。 - 4.過大な要求
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明らかに遂行が困難な業務を押しつける、あるいは適正な範囲を超える業務量を強制する行為が該当します。能力や経験を無視した業務の押しつけも含まれます。
例:・経験のない業務を、十分な指導なしに短期間で成果を出すよう命じる。
・明らかに処理できない業務量を毎日課す。 - 5.過小な要求
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本来の能力や業務内容に見合わない単純作業などを与え、意図的に仕事を奪う、やりがいを喪失させる行為です。本人のモチベーションや評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
例:・管理職経験者に、資料の整理や掃除のみを担当させる。
・能力のある社員に雑用だけを命じる。 - 6.個の侵害
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労働者のプライベートな領域に踏み込み、過剰に干渉したり監視したりする行為が該当します。職場とは直接関係のない私生活や信条に関する圧力が問題となります。
例:・結婚や出産、宗教、思想などについて執拗に質問する。
・休日の行動や交友関係を調査・干渉する。
パワハラを予防するためには
パワハラを未然に防ぐためには、事業主・管理職・従業員それぞれが自分の立場でできる対策を講じることが重要です。単に「やってはいけないこと」を共有するだけでは不十分で、職場全体に「ハラスメントを許さない」文化を根付かせる必要があります。
- ・相談窓口の整備
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相談があった際には、被害者・加害者双方の立場を尊重しながら、公平かつ迅速に調査・対応する体制を整えることが信頼のカギです。
なお、「労働施策総合推進法」(いわゆるパワハラ防止法)により、2022年4月1日からは中小企業も含めて、すべての企業に対しパワハラ防止措置が義務化されています。 - ・教育と研修の継続的な実施
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年に数回のハラスメント研修を形式的に行うだけでは十分とはいえません。新しく管理職やリーダーとなった従業員など、新たなポジションに配属された従業員向けに、具体的な指導方法や注意すべき言動など、より実務に即した内容の研修を継続的に実施することが効果的です。
- ・職場環境の定期的なチェック
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ストレスチェックや従業員アンケートなどを通じて、日常的に職場の雰囲気や人間関係の状況を把握する取り組みも重要です。問題の芽を早期に発見し、職場環境を整備することが、パワハラ予防の土台となります。
- ・パワハラを許さない方針の明文化と周知
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「職場でのパワハラを許容しない」という企業の姿勢を明確にし、それを全従業員に伝えることです。就業規則や社内規程にパワハラ禁止の条項を盛り込み、違反があった場合の対応も明示しておくことが重要です。
経営者や代表者が従業員に対して「パワハラ防止に真剣に取り組んでいる」ことを発信することで、職場全体の意識が高まります。
パワハラ相談を受けた際は
パワハラの相談があった際の対応方法は、被害者が安心して話せる環境を整え、迅速かつ公正に対応することが求められます。
ただし、対応する際には、被害者の話をしっかりと聴くことはもちろんですが、一方的な意見だけで判断せず、状況を総合的に確認することも重要です。
まとめ
職場のパワハラは、被害者本人だけでなく、組織全体の信頼や生産性にも大きな悪影響を及ぼします。法律で防止措置が義務づけられている今、企業には適切な相談体制の整備や、日頃からの予防・教育が強く求められています。
パワハラを「個人の問題」と捉えるのではなく、「職場全体の課題」として取り組むことが、健全で働きやすい職場づくりの第一歩です。万が一、相談が寄せられた場合には、被害者の不安に寄り添いながら、冷静かつ丁寧に対応する姿勢が大切です。
企業としての信頼を高め、社員が安心して働ける環境を整えるためにも、パワハラ対策の見直しを今一度行ってみてはいかがでしょうか。