
建設業界では深刻な人材不足が続く中、厚生労働省が令和8年度の予算概算要求で建設業の人材確保・育成に関する施策の概要を発表しました。
この要求は、高齢化による熟練工の退職や若者の建設業離れといった課題に対応するため、人材の確保から技能継承、デジタル化対応まで幅広い取り組みを盛り込んだものとなっています。単に人手を増やすだけでなく、業界全体の持続的な発展を目指した総合的な人材戦略として注目されています。
令和8年度予算概算要求の概要
令和8年度予算概算要求の概要では、建設業の技能者のうち、60歳以上が約4分の1、29歳以下が約12%という現状認識は変わらず、将来の担い手確保が急務であるとされています。
前年度の予算概算要求から引き続き、若者や女性の入職・定着促進に重点を置きつつ、処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体的に進め、中長期的な人材確保・育成を目指す方針が打ち出されました。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用促進も継続した取組が計画されています。
前年度からの変更点
令和8年度予算概算要求の概要では、令和7年度分の政策展開とどのような違いがあるのでしょうか。特に気になった点を抜き出しました。
- 1.人材確保の施策
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和7年度の主要施策が「働き方改革等による建設業の魅力向上」であったのに対し、令和8年度は「担い手確保等を通じた持続可能な建設業の実現」に名称が変更され、予算も6.6億円に大幅に拡充されています。
建設業の持続性について、より取組を強化する考えであることが読み取れます。 - 2.建設業の生産性向上の促進
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新規の項目としてICT導入に係る生産性向上策の深掘り調査や、経営事項審査等の企業評価見直し検討が追加されました。「技術と経営に優れた企業」について経営事項審査等の企業評価に影響がでることが見込まれます。
- 3.建設産業の担い手確保に向けた女性・若者の入職・定着の促進
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令和7年度では、女性活躍・定借促進は「新行動計画に基づくコンテンツ作成、技能者を雇用する企業経営者への啓発等」にとどまっていましたが、令和8年度では令和7年度に策定された実行計画に基づく取組を実施することが計画されています。
女性・若者の入職・定着の促進に向けて具体的な取組が実施されることが期待できます。 - 4.適正な労務費の基準の設定等による処遇改善の推進
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令和7年度では建設キャリアアップシステムの加入促進や、社会保険や技能向上の機会等が十分に確保されない一人親方の技能者の処遇改善に向けた施策を実施するという曖昧な内容でした。
令和8年度では「労務費の基準」を基について、基準の実効性確保策及び、基準の改定・精緻化等に向けた調査・検討を実施する具体的な内容となりました。 - 5.建設業への入職促進に向けた魅力発信事業
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令和8年度分では、新たに建設業への入職促進に向けた魅力発信事業が追加されました。工業高校生、退職自衛官、就職氷河期世代をはじめとした、建設業への就業有望層に向けた PR手法の整理及び就業障壁の解消に向けた調査が実施される予定です。
まとめ
建設業は日本の社会インフラを支える重要な基幹産業でありながら、深刻な高齢化と若手人材不足という課題に直面しています。
今回の概算要求からは、こうした現状を受けて政府が従来以上に積極的な支援策を展開し、厚生労働省と国土交通省が連携して包括的な対策に取り組む姿勢が明確に読み取れます。
特に「人材確保」「人材育成」「魅力ある職場づくり」の3つの柱を軸とした政策体系は、単に人手不足を補うだけでなく、建設業界全体の魅力向上と持続的な発展を目指した戦略的なアプローチといえるでしょう。
これらの取り組みにより、建設業界の未来を担う人材基盤の強化が期待されます。