
採用後の「試用期間」は、従業員の適性や能力を見極める大切な期間です。しかし、「試用期間中ならいつでも自由に解雇できる」と考えている経営者の方も少なくありません。
試用期間中であっても、労働契約は成立しており、解雇には正当な理由と適切な手続きが求められます。場合によっては「不当解雇」と判断され、トラブルに発展することも。
今回は試用期間中の解雇に関する注意点や実務対応のポイントを解説します。
試用期間とは
「試用期間」とは、企業が新たに採用した従業員に対して、本採用に至る前段階として一定期間、実際の業務に従事させ、その勤務態度・職務遂行能力・協調性などを総合的に評価するために設けられる制度です。
一般的には1カ月から3カ月程度の期間が設定されることが多いものの、業種や職種、企業の採用方針によってその長さは異なる場合があります。
試用期間中であれば解雇できる?
「試用期間中であれば、簡単に解雇できる」と誤解されている事業者も見られますが、実務上および法的にそのような扱いは認められていません。
確かに、試用期間は使用者・労働者双方にとって、継続的な雇用関係の適否を見極めるための評価期間と位置づけられますが、当該期間中であっても、解雇の有効性が認められるためには、客観的に合理的な理由および社会通念上相当と認められる事情が必要とされることに変わりはありません。
試用期間中の解雇が無効となった判例
試用期間中の解雇が無効となった判例では、年俸1300万円で採用された事業開発部長が業務遂行能力が不足している、経営方針との不適合などの理由から本採用が拒否されたオープンタイドジャパン事件があります。
裁判所の判断:
本事案では、業務遂行能力が不足している、経営方針との不適合などの理由について客観的に認められる証拠が確認できなかったこと、開発部長職として職責を果たすことは2カ月弱では困難であったなどの理由により解雇が無効とされました(ただし、判決後の賃金請求については却下)。
試用期間中の解雇が有効となった判例
試用期間中の解雇が有効となった判例では、機械装置の製造会社が中途採用で溶接経験者を募集したところ、溶接技術が面接の際の説明には全く及ばず、技術指導を受けても改善が見られなかったため解雇した日本コーキ事件があります。
裁判所の判断:
雇用契約は試用期間中でも有効であり、解雇には合理性と社会的相当性が必要とされたうえで、求人票にも即戦力を求めていることが明記されており、面接での説明内容と実際の技術に大きな乖離があったこと、改善するように指導しても改善されなかったことなどが考慮されて試用期間中の解雇は「有効」と判断されました。
まとめ
中途採用社員については、採用段階から一定の実務能力や即戦力としての活躍が期待されていることは言うまでもありません。特に、役職付きや高待遇で雇用される場合には、その期待値は相応に高くなります。
しかしながら、実際の業務遂行能力が企業の期待に届かなかったという理由だけで、試用期間中に直ちに解雇または本採用拒否を行うことは、法律上も慎重な判断が求められます。
企業側には、当該労働者の勤務状況を客観的かつ具体的に把握し、指導や改善の機会を十分に与えたうえで、合理的かつ社会通念上相当と認められる対応を行う義務がある点に十分留意する必要があります。